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「おひとりさまの入院について」
身寄りなし問題研究会 須貝秀昭
<プロローグ>
「病院に軟禁されてます。助けてください」ケアマネージャーからの電話だった。
担当の利用者(90歳。要介護1。生活保護世帯。)が自宅で転倒。たまたま訪問診療で訪れた開業医が発見。なぜかケアマネージャーが呼び出され無理やり救急車に同乗させられて病院へ搬送。レントゲン等の検査にて大腿部頚部骨折と膝の骨折の所見あり。入院になるかと思われたが病院の医師は「親族の同意がないと治療や入院ができない」と言っている。ストレチャーに乗ったまま2時間が経過していた。ケアマネージャーが帰ろうとすると看護師に止められて軟禁状態とのこと。

その電話を受けて包括支援センターは関係機関に連絡。市役所の生活保護のケースワーカーと地区の民生委員そして包括支援センターの3人で病院にかけつけた。病院医師に身寄りがいないと説明したが医師は納得しなかった。その後なんとか市役所経由で甥と連絡がとれた。甥が病院にきてようやく入院となった。救急搬送されて5時間が経過し21時を過ぎていた。
包括支援センターの経験上、身寄りがいない場合は関係者が集まり医師に事情を説明すれば入院となることがあった。しかし今回そのようにはならず非常に入院まで時間がかかった。翌日にその病院の医療相談員に経過を報告し、なぜこのような事態になったのか聞いた。
どうやら以前この医師は家族の同意なく治療を始めてトラブルになったことがあったので非常に慎重になっていたとのことだった。それにしてもだ。実はその甥は今回本人に会うのが20年ぶりだった。20年ぶりにあう甥の医療同意にどんな意味があるのだろうか。この方は認知症の診断はあるものの、自分の意思は伝えられる人であった。
<医療同意>
医師が医療行為を行うには医療診療契約とは別に原則として具体的な医療行為につき患者から同意を得ることが必要であり同意なくして医療行為を行うことは違法となる。
しかし、同意があるためには当然のことながらその前提として決定があるのであって医療に関する意思決定は本人にしか行うことができないのであるから、問題の本質は本人が適切な医療方針の決定を行うことができないということであり、「医療同意を取ること」ではなく「本人が納得できるような医療に関する意思決定を行えること」である。
すなわち「身寄り」がない人の医療に関する意思決定の問題はとは「身寄り」のない人が自らの意思を表明できない状態にある場合、本人の意思を推定することができるものがいないため本人の望む決定を行うことができない、という問題である。またその背景には本人の医療に関する意思決定にかかわる意思を推定することができるのは家族であるという社会的合意がある一方、親しい友人や関係者であっても家族以外のものにはそれができないとされているという問題がある。
<本人の備え>
「身寄り」のない人がその人が「身寄り」がないことにより生じることが予想される事態に「備え」を行うことが効果的である。すなわち、医療や死亡に関する自らの意思を表しておくこと、「事前指示」を行うことであるがさらに、ただ意思を表明するだけでなくその意思を誰かに託し「自分のことをよく知っている人」「自分のことを表明してくれる人」を生み出すことがさらに効果的である。いわゆるACPが重要である。そこでは単に事前意思を表明することだけでなく周囲のものと話し合う「プロセス」が重視されている。「終活」が広まり、エンディングノートを書く人も増えてきている。「身寄り」のない人が積極的にこうした「備え」を行うことが推奨されるべきである。
「備え」として表された本人の意思を誰に託すかという問題についてであるが、現状では任意後見制度や民事信託を利用して専門家に対して託すということが考えられるが十分な広がりを見せているとは言えず、また費用面で利用できない人も多い。互助の仕組みづくりにおいて、お互いに自ら意思を託し合う関係も考えられるであろう。
こうした「備え」により、病院が連帯保証人を求める機能の一つである医療に関する意思決定について解決が図られ、連帯保証人の必要性が減少する。ただし、前途のとおり、社会的合意が必要である。
こうした「備え」の考え方は障害者の親亡き後問題にもあてはまる部分がある。障害児童の親が支援者や成年後見人へのバトンタッチを見据えてわが子の情報を記録するといった取り組みも行われている。
<地域共生社会>
今回のことは病院側の過剰なリスクマネジメントなのは間違いない。人が自分のことを自分でできないとき、だれが支えるのか。この問いに対して仮に「地域で」「みんなで」と答えることにしよう。それらを具現化していくことが「身寄り」問題の解決に導き、地域共生社会を創造してくのであろう。
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執筆 須貝秀昭

1971年生まれ。高齢福祉相談窓口の仕事をしているときに「身寄り」問題を感じ平成29年に有志で「身寄りなし問題研究会」を発足。代表を務める。現在はLGBT、依存症、ACP、風俗、生活保護など様々な社会課題の発信に取組んでいる。主な資格:看護師、救命救急士、社会福祉士、主任介護支援専門員。そして新潟着物男子部部長。
社会活動士 須貝秀昭のブログ
http://www.kaigogoyoukiki.net/specialist/sugai/
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