施設という言葉を聞くと殆どの人が、何かある人が行く場所、と言います。逆を言えば何もなければ行かなくてもいい場所なのです。認知症の人が施設の初回利用の時に何故嫌がるのか?と考えると、本当は認知症があって日常生活に支障をきたすようになり、施設を利用するとなったのだけど、本人は認知症なので「自分は特に問題はない」と思うために「何もないのに何で『施設』に行かないといけないのか?」という気持ちになって、嫌がるのです。
そこには本人の中に希望や夢はなく施設という場所に行かされるんだという心の落差を感じている事になります。そしてそんな落差を感じているままお茶を出してもらい、体操をしたりするのだけど、勝手に歩こうとすると「どうしたのですか?どこへいくのですか?」と問われて、危ないからまず座って下さいと言われます。食事を運んでくれて下げてもくれるのだけどその後には必ずといって良いくらいに「歯を磨きます」「トイレに行きましょう」と半ば強引に連れていかれます。
行きたくないという意思表示をしても「虫歯になると大変だから」「何かあったら困るから」と言いくるめられて行かされます。一休みするとレクリエーションをしましょう!と何がしたいのか?と聞かれる事はなく、一方通行のゲームが始まり楽しかったね、で終わる。その後のおやつも好きなものを食べられるわけではなく、50円のおやつ代を支払っているのに個別袋に入っているクッキー1枚か2枚、それと水分補給と言われて出される飲み物。帰るまでに時間があるからと1か所に集められてボロボロの歌詞カードが配られて皆で歌を唄ったり、クイズが始まったり、カラオケだったり。そうやって施設からご自宅へと帰っていく。
こんな1日の中に夢や希望があるのだろうか?安心安全なのかも知れないけどそれだけでは「行きたいと思う場所」にはならないと思うのです。施設の取り組みを改善したい!と本気で考えていってくれる施設は少ないですが、それでも依頼がある施設にはその改善のために伺います。最初は先に書いたようなスタッフ主導、都合の施設が殆どです。しかしそこで働くスタッフさんらに話をして、一緒に実践をしながら振り返りをして確認し、また考えて新しい課題を実践して、振り返って利用者さんの変化を見ていきます。するとある程度素直に取り組みをやってくれる施設では、まず利用者に変化が見られます。

お茶を自らいれる姿、人にいれてあげる姿、自分のタイミングでトイレに行ったり、食事の準備を手伝う、食事を取りに来る、下げる、洗い物をする、掃除をしてくれたり、昼からは自分たちで料理をしたり、畑をしたり、社会参加活動として近所の公園を掃除、お店の買い物かごを拭く作業、コンビニでの清掃、商品出し作業等、施設内で販売しているアイスクリームやジュースを買って休憩して、フロアーや洗面台等の掃除をしてくれたりする姿。
その作業の中や帰宅前の表情を見ているととても表情が豊かになっていて、話せる方はよく話してくれます。こちらを気遣って色々と手伝ってくれる時もにこやかで「それくらいやるよ」と。そんな利用者の変化を目の当たりにするスタッフたちにも変化が見られます。「あの人が自分でお茶をいれている」「ご飯を取りに行ってくれる」「訓練に誘っても全く参加してくれなかった人が畑作業には自ら参加してくれて訓練以上の訓練になっている」「地域に出ていけば最初は近所の方とも会話がなかったけど最近はいつもご苦労様等声をかけてくれるようになった」このようなリアルな現実が少しずつ体感できるようになってくるのです。

ここまでくればスタッフは色々なアイデアを楽しめるようになります。もちろん利用者を入れての思考であり実践です。高齢者だから懐メロじゃなければダメ、高齢者はやはり煮物が好き、味付けは薄くないとダメ、お風呂に必ず入らないと清潔が保てない等。間違っていないこともあるけれど、行き過ぎると人を物として扱っているように見えるのです。
夢が叶う場所に変化させるためにはスタッフがまず丁寧なアセスメントからその方の能力をある程度把握して信用する、やってみる事から始まります。そして、何にも出来ない人ではなく、一部が出来なくなっているからその部分をお手伝いする事で「ゆっくりでも出来る事が増える」のです。そういった実践を利用者もスタッフも感じていくとお互いにモチベーションが上がり、会話が増えて、本人の気持ちに近づく事が出来て、やりたい事、やってみたい事が見えてくる。そして利用者の夢に近づく結果になっていくのです。

私はよく現場の方に、「スタッフの意識や考え方が少し変われば利用者は必ず変わる」と話します。利用者が自ら変わる事が出来ないから専門職の皆さんがご本人の出来ない事をあらゆる角度から支援する事で自らの意思が反映されるという事。施設という場所がお互いの想いと夢と希望が叶う場所であってほしいと思います。

ブログ現場放浪記 希望の伝達人 介護環境アドバイザー 山下 総司
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