身寄りなし問題研究会 須貝秀昭
「お隣さんが入院しました。あとはお願いします」と近隣住民から包括支援センターに連絡があった。詳しく話を聞くと昨夜22時ころに突然、救急隊がやってきて「お隣のAさんの体調が悪くこれから病院搬送します。救急車に同乗してほしいとのこと。Aさんは70歳の男性で一人暮らし。どうやら搬送先の病院は決まったが、どなたかが救急車に同乗するのが病院側の搬送の条件のようだ。仕方なくお隣さんは同乗し、入院の手続きなどをしてきた。結局帰宅したのは真夜中の2時だった。
包括がAさんのことを調べたら要介護1でケアマネージャーが付いていた…その後、連日ケアマネと病院の医療相談員から包括に相談があった。「着替えを持ってきてほしい」「日用品を買う現金がない」「医療同意はどうすればいいか」「万が一お亡くなりになったらどうすればいいか」病院、ケアマネともに悲痛な訴えをしてくる。結局市役所交えて関係者でAさんの個別ケア会議をすることになった…。
Aさんのような事例は最近増えてきた。よくある事例と言ってもいいかもしれない。
「医療同意」
「金銭管理」
「日用品支援」
「死後対応」
家族がいれば上記のことはすべて行っていたはず。これらの家族の代替機能がこれから必要になってくると思われる。
『身寄り』の代替として成年後見制度や身元保証サービス事業者が利用されているが、これらを『身寄り』問題の解決のために活用するためには、
①本人の意思に基づくこと
②権利制限を受けないこと
③適切な費用
④チーム支援
⑤社会とのつながりを絶たないこと等
の条件がクリアされる必要がある。
本人が、様々な選択肢の中で充分に検討を行ったうえで、成年後見制度を利用したり身元保証サービス事業者と契約したりすることを否定するものではないが、少なくとも『身寄り』がないことが理由で、権利制限を伴ったり費用がかかったりするこうした制度や業者を「利用せざるを得ない状況」ではないか。
新潟県でも身元保証会社は増えてきている。ちなみに契約時には100万以上費用が必要になる。また身元保証会社は監督官庁がないため信頼性の見極めが非常に難しい側面がある。
そもそも「家族による支援」が当たり前の価値観でよいのだろうか。「家族による支援」が、特に法的な根拠はないにもかかわらず、最優先されるという文化や雰囲気があるのではないか。そのために家族以外のものが「家族による支援」に不適切な点があると感じても、適切に介入することを難しくしているのではないか。
例えば、家族が認知症高齢者の金銭管理をしている場合において、その管理方法が適切でないと感じられても、介護サービス事業者等は、これに介入することが難しい。医療同意についても、家族の意見が優先され、医療関係者等周囲のものがその意見に疑問をいただいても異議を述べることが難しい。 また、「家族による支援」が最優先されるという文化や雰囲気が、上記の「家族による支援」に対する期待による重圧を高めているのではないか。
『身寄り』問題は、個人の問題ではなく、『身寄り』のない人を平等に扱い包摂することのできない社会の側の問題と考えてみてはどうだろうか。『身寄り』問題の解決の主軸は『身寄り』のない人を包摂するための社会の変容、つまり、地域づくりであるべきである。
『身寄り』がないことはもはや「例外」ではなく、「第2のスタンダード」であるとの考えのもと、地域全体で『身寄り』問題を直視し、解決に向けて行動する必要があります。そして『身寄り』問題は、排除の問題であり、権利擁護の課題です。
まず、『身寄り』がなくても居住・医療・介護・就労等から排除されないような支援や仕組みが必要とされます。『身寄り』がなくても障害など生きづらさを抱えても「本人らしく生きる」を支えていきたいと考えてます。
身寄りなし問題研究会は「身寄り」問題を軸に様々な社会課題を発信し解決の道を模索していく団体です。その社会課題の発信場所として毎月定例会をしております。定例会は新潟市内毎月第三木曜日夜。申し込み不要でどなたでも参加できます。仕事帰りにフラッと立ち寄ってください。詳しくはホームページ参照してください。
身寄りなし問題研究会 ホームページ https://miyorinashi.com/
須貝秀昭
1971年生まれ。高齢福祉相談窓口の仕事をしているときに「身寄り」問題を感じ平成29年に有志で「身寄りなし問題研究会」を発足。代表を務める。現在はLGBT、依存症、ACP、風俗、生活保護など様々な社会課題の発信に取組んでいる。主な資格:看護師、救命救急士、社会福祉士、主任介護支援専門員。そして新潟着物男子部部長。
社会活動士 須貝秀昭のブログ
http://www.kaigogoyoukiki.net/specialist/sugai/
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