社会福祉法人ゆうしん
特別養護老人ホームくるま乃
施設長 相馬房嘉
「ほーれ、食べな~。よしよし、おらのこと分かるんだね」「きれいだね~。かわいいねぇ」
認知症ご利用者のご自宅に持ち込んだ携帯用アクアリウム(熱帯魚の水槽)へスタッフと一緒に餌やりをしながらニコニコと目を細めているご利用者の会話です。
今年の春先に、日頃お世話になっているドットコムマーケティングの阿部さんからの紹介で、アクアリゾートの平澤さんとお話する機会を得ました。
「アクアリウムを通じて認知症ケアに役立てる方法が無いか、一緒に検証してみませんか?」という提案でした。
「いいですね!是非一緒にやりましょう♪」といつもの軽いノリで即答したものの、私自身はアクアリウムについてなんの知識もないので、まずは平澤さんにご講義いただくところからのスタートでした(笑)
すでに県内で数多くのアクアリウム設置実績のあるアクアリゾートさんとしては、通常行っている水槽設置の他に新たなアプローチを模索しているところでした。
小規模多機能居宅介護事業所という介護サービスでは、訪問・通い・泊まりというサービスを組み合わせて利用することが出来ますが、特に一人暮らしのご利用者は新たに他人との関わりを持つことに積極的になれず、訪問サービスのみの方も多いという現状があります。
そういったご利用者にも通いサービスもご利用いただいて他者との楽しい関わりを持ってもらったり、もしくは自宅に一人でいるときの不安を少しでも軽減したい、という想いを介護スタッフは常々持っていました。
そこで今回のアクアリゾートさんからの提案を活かし、
①アクアリウムが事業所にあることを話しのきっかけにして通いサービスにお誘いする
②訪問時に携帯用の小型アクアリウムを持っていきご利用者の癒しを提供する
という計画を立てました。
効果はすぐにあらわれました。
アルツハイマー型認知症のS様は、外に出ることを嫌がられ、ほとんど通いサービスを使ったことが無い方でした。昔から猫を飼っていて生き物には関心があるようだったので、アクアリウムのお話をして「一緒に水槽のかわいいお魚に餌をやりにいきませんか?」とお誘いすると興味を持っていただけて、はじめは顔を出す程度ということで事業所にお越しいただけるようになりました。今ではアクアリウムを気に入っていただけたようで、餌やりを楽しみにしてご来所いただいています。
携帯用の小型アクアリウムは、アクアリゾートさんも初めての取り組みということで容器の選定から考えました。熱帯魚は、生命力が強くて人を認識できてじっと見つめてくることもあるという「ベタ」という種類にしました。訪問した時にスタッフと一緒に自宅で餌やりをして、次の通いサービスご利用の時に一緒に事業所へ小型アクアリウムを持ってきて水換えなどを行うようにしました。自宅へ置きっぱなしにしなかったのは、熱帯魚の管理のためもありますが、通所サービスをご利用いただくための動機づけの意味もありました。
レビー小体型認知症で自宅に一人住まいのM様は、一年前に飼っていた犬を亡くしてしまい、日々悲しみの中過ごしていらっしゃいました。今回の小型アクアリウムをお勧めすると、はじめはそれほどでもありませんでしたが次第に愛着を持たれてきて「話しかけるとヒレをパタパタさせて挨拶するんだよ!」と大変喜ばれ、今では心の拠り所にされています。
また、アルツハイマー型認知症で家族と同居されているT様は、ご本人はそれほど熱帯魚に興味は示されませんが、お孫さんがとても興味津津で、熱帯魚を介してのコミュニケーションが増えたと本人もご家族も喜んでおられました。
正直なことを言えば、私個人としては綺麗な熱帯魚は飾る絵と同じで、はじめはもの珍しく思ってもそのうちにはそこにあることが当たり前になってしまい、徐々に関心も薄れていくのではないかと思っていました。(アクアリゾートさんごめんなさい苦笑)
ところが、実際は違いました。
私が思っていたように関心が薄れることなく、むしろ愛着が増していくのはなぜかと考えたとき、それは熱帯魚という「小さくても懸命に生きている命と関わっているからだ」ということに気付きました。言葉でのコミュニケーションは取れなくても、小さな命が自分のそばにあることは、認知症で理解力が薄まることがあったとしても、生活の上での大きな励みになり心の支えになるのでした。
また、ご利用者がそういった生きがいを持てることで、その人の精神面でのケアについてなにか良いアプローチは無いものかと日頃から考えている介護スタッフにも、大変やりがいが持てる結果となりました。
今回ご紹介した方々はたまたま認知症をお持ちの方々でしたが、その病気を持っている方々が同じように変わっていくというわけではありません。認知症であっても皆さん性格は十人十色であり、病気があってもなくても心の拠り所を持つことで日々の生活に張り合いが持てることが、今回のアクアリウムで再確認出来ました。
これからも、認知症という病でひとくくりにすることなく、その方一人ひとりの心に寄り添って考えられるケアをスタッフと一緒に目指していきたいと思います。
今回はこのようなありがたい機会を得ることが出来て、ご利用者だけでなくスタッフにとっても大変勉強になりました。アクアリゾート平澤さん、ドットコムマーケティング阿部さん、ありがとうございました。
アクアリウムのお問合せ
株式会社 アクアリゾート
Tel 025-282-7201
ホームページ https://aqua-resort.jp/
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